白い林檎、硝子のスープ

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時間封鎖 ロバート・チャールズ・ウィルスン (ひろば原稿版)

 太陽系の寿命は何年だ、とか地球が生きられない星になるまであと何年だ、とか言われても、実感なんか湧かない。そんな途方もない時間なんて、僕らには関係ない。滅亡する頃にはどうせもう死んでいるんだから。
 この小説で、地球は殻に覆われる。そして覆われた外、つまり宇宙では地球上の約1億倍のスピードで時が流れていく。つまりこのままでは地球上で約五十年後には宇宙では五十億年が経過して、巨星化した太陽に飲み込まれて人類は滅亡してしまうのだ。星や月が見えなくなり、そして終末がすぐそこにある。終末世界というのは比較的使い古された題材であり、古典SFではそこで科学者たちが足掻く話が多い。しかしこの物語では終末が近付く世界で足掻く科学者、ではなく流されるままの一般人が中心となっているのだ。
 人類の命運を握る科学者が「主人公ではない」ということは非常に重要である。これによりこの小説の展開においては「どうする」ではなく「どうなる」ということが主軸となっており、必然的にSF的な理論は少なく、周囲の人々の人間関係に重点が置かれている。仮定体という人類の危機に対し能動的に取り組むのではなくそれに流されつつ普通の生活を送る。否応もなく巻き込まれていく人々の人間ドラマとして、非常に秀逸である。弱めで使い古されたSF的な題材を補助的に用いることで素晴らしいドラマを生み出しているのだ。。
 ストーリーは、主人公である一般人と双子の兄妹の3人が主軸となって進んでいく。それぞれ社会、科学、宗教を象徴していて、その3つがいかに変容していくか、あるいはどこへ進んでいくのか、というのがわかりやすく表されている。科学と宗教の対比はSFにはありがちではあるが、やはりこれも人間関係を補うためのものであり、それを最大限異常に活用できているところには作者の高い技術力がうかがえる。
 構成面でもしっかりしており、早く先を読みたくなる。全体的に非常に完成度が高く、SF好きでもそうでなくても読んで面白いのは確かだろう。