白い林檎、硝子のスープ

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無限記憶 ロバート・チャールズ・ウィルスン

無限記憶 (創元SF文庫)

無限記憶 (創元SF文庫)


 この作品を読もうと思った理由はどうせみなさん前作『時間封鎖』が面白かったからとかおっしゃるわけです。まあ確かに前作を読んでないと一部の登場人物の背景とかがわからないうえにそもそも作品全体を覆う設定の説明があんまりないので面白さ半減だと思うわけです。だけど前作と比較して読んでしまったら、そりゃあ微妙という判定を下されるのは目に見えているわけですよ。だからそういう比較なしで読んでほしいなあ、と思ってしまうわけですが、シリーズものである時点でそういう宿命からは逃れられないですよねえ。
 たしかに『時間封鎖』のインパクトはデカい。そもそも時間的なスケールが地球の終わりまでという壮大な物語だし、提示される物語も足掻く科学者、終末世界、新興宗教といったわかりやすく盛り上がるネタ。そこで一般人を主人公にして傍観者視点を貫いたことが前作を傑作レベルまで持ち上げたわけです。今回の『無限記憶』には基本的にそういうのは何にもない。前半はただひたすら新世界での登場人物たちの描写が続き後半は何かが起こるかもしれないと漠然とした目的地に漠然と向かっていくだけ。そりゃあ、前作のイメージで期待されたら軒並み前半で挫折ですよ。
 でもこの作者の魅力はそこじゃない。前作と共通するある魅力があります。それは人間ドラマの巧みさです。前作の、壮大なスケールの世界観に足掻くでもなくただ傍観し、科学者たちを脇目に展開する一般人たちの物語は、とても堅実に、それでいて非常に巧みに描かれていた。今回は登場人物全員がしっかりと描かれているため、映画的とでもいうべきドラマ性にかなり磨きがかかっているわけです。前作もこの魅力こそが語られるべきところなのですが、やはりスケールの大きさに圧倒されがちであまり語られなかった。だからこそこの作品でその人物描写の上手さ、一般人と特別な人との書き分けなどの面白さを感じてほしいわけです。
 ただ確かに物語として面白いかといわれてしまうと正直あんまりお勧めできるものではないわけです。『時間封鎖』があまりにもなため、物語を牽引する大きな謎もなくただ人間ドラマが続くこの作品は悪くはないけれど物足りないという評価をされざるを得ない。後半は終わりに近づいているということで深層に肉薄する面白さというのが出てくるのですが、いかんせん前半が。物語を牽引する何らかのギミックは重要ですから、その点やはりこの作品は非常に惜しい作品だと感じますね。
 ただ、それでも終盤の演出、真相の一端が明かされるあたりのそんなに盛り上がらないけど淡々と明かされていくという雰囲気の良さ、新世界のちょっと変わった魅力など読めば楽しい部分はいっぱいの小説だと思います。三部作の二つ目にしてはすごく頑張った方ではないかと。

(以下ぐだぐだと)
 登場人物たちになんとなく魅力がないのも問題。描写がうまいので読めるのだけれど、それほど魅力がないため限度がある。魅力のないキャラをいかにうまく書くか、というのを考えると最高レベルだろうけど。前作のキャラはもうなんというかすごく最高なんだけど。火星人、第四期キャラは少し人間離れした精神だからしょうがないといえばしょうがないんだけど、人間代表がどうもなんとも。
 世界観最高なんだけどなあ。個人的には好きなんだけどなぁ。
 まあ無限記憶のネタがわかりにくいうえにありがちなのもまずい。ぐだぐだ。