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白い林檎、硝子のスープ

読書・ゲームなどの感想を書いていくです

チャイルド44 トム・ロブ・スミス


 正直なところ、面白くなかったです。

 ネットではやたら評判が高いようですし、例のランキングで1位をとっているので、少しだけ期待して読んだのですが、微妙でした。

 ソ連、とくにスターリン時代の恐怖が非常に読み口さわやかな文体でじわじわと迫ってくるのはすごいと思いますが、上巻の前半部分でそういう話が大量に出てくるため、感覚がまひしてそれ以降のそういう系統の話が怖く感じなくなってしまいました。おそらく上巻での「取り締まる側」としての描写と下巻での「取り締まられる側」としての描写の対比で物語に厚みを持たせようとしたのでしょうが、どうもありきたりな恐怖政治の域を超えておらず、小説として面白くなかった。ノンフィクション的な描写だと考えるととても恐ろしいのですが、小説としてどうかと言われれば、微妙と言わざるを得ないものです。

 「設定」としては非常に巧妙なんですよ。「犯罪は起きない」という大前提が存在する社会、というのは非常に秀逸。この舞台を選んだのは正解です。でも、小説であるならば「ノンフィクション」ではいけないのではないでしょうか。確かに実際にあった事件を基にした小説です。ではそれでいいのでしょうか。それだけで、小説は成り立つんですか? 結局頑張ってはいるけれど成り立っていないと思うんですよ、この本は。

 閑話休題。もう一つ面白くないと思ったのは「完全に先が読めてしまう」ということです。プロローグの話がほとんど物語に関わってない時点で、具体的には上巻のブロツキーを追いかけるあたりでもう結末が読めました。また、どうせこういう話を持ってくるんだろうな、という話を犯人との対峙の場面で持ち出されて非常に残念な感じでした。
 とにかく先が読める。というか上巻のあらすじに上巻の話はほとんど書かれてるしね。

 この物語、いくつかの要素で成り立っています。

スターリン時代の描写
2レオとライーサの関係
3冒険小説的な動き

 1については最初に貶しましたが、上巻のほとんどを構成していて、その完成度は実際高いです。面白くないだけで。
 2は正直理解に苦しみました。心情描写は多いのですが、あまりに不自然すぎて。レオ、ライーサ、イワンの関係で単純化して描いたんですかね? とにかく不自然でした。
 3は、先が読めても面白くする方法はいくらでもあるんですが、面白いと思ったのは列車からの逃走のシーンだけでした。あそこは面白かった。誰も密告しない、というのに不自然さがあるものの。あそこでクライマックスな感じで、そのあとは蛇足にしか見えませんでした。

 全体的に、文章もうまいし、読ませるんだけど、読了後に何にも残らない作品だな、と思いました。実話の方には興味を持ちましたが、この小説は正直お勧めできないです。

 評価:3