白い林檎、硝子のスープ

読書・ゲームなどの感想を書いていくです

スパイダーバース 感想

1.総評

 単純に娯楽映画としての出来がとても良い。

 一つの軸線「二代目スパイダーマンのオリジン映画」としての流れから一度も外れること無く、緩急織り交ぜながら飽きさせない作りになっており、スパイダーマン映画としても、ヒーローオリジン映画としても定番を押さえつつ新たな方向性を魅せているのは、あるいみブラックパンサーに近いものを感じる。

 その上での独自性がとても見事で、2D3Dアメコミ漫画カートゥン入り混じった独特の映像表現と、原作や映画・キャラ同士の対比表現・アメコミ的マニア向け表現を見事なバランスで融合させ、すべての要素がお互いを補完しあっている。まさにアニメーションでしか実現できないものを徹底的に詰め込んだ上、奇跡的なバランスで成立している作品なのである。

 わかりやすいところだとマイルズの能力発現以降の疾走感のある数十分。ここで映像表現を使いつつ原作の表現を活かし、物語の緩急をつけながらこの映画のやりたいことを肌で感じさせてくれる。物語が展開するたびに、必ず一つ目を瞠るような表現かファンサービスがある上に、展開が早いのでもう全てが贅沢である。特にスパイダーマンのファンとしてはたまらないだろう。

 

2.スパイダーマンという個性同士のぶつかり合い・仲間意識・責任感がきちんとオリジンに昇華されていく

 とくに素晴らしいのがやはり「オリジン映画」であった点だと思う。流れはぜんぜん違うものの、スパイダーマンにおいて必要な経験をすべて描写している。

「自分だけの体験、自分だけの感情」を胸に孤独に生きていくタイプの話が多いスパイダーマンにおいて、それらを映画全体を通じて描写した上で「共有できる仲間」を登場させることで、スパイダーマンとはどういうものかを踏まえた、独自のオリジン映画になっている。

 その上で異次元のスパイダーマンたちの成長物語となってるのもうまい。マイルズという新しいスパイダーマンのオリジンを見る・助ける・諭す・驚くことにより、それぞれの抱える問題との向き合い方を見直していく形になっている。更にうまいのはマイルズ以外のスパイダーマンの成長は本筋ではないため、ある程度「先が見える」状態になったらきっちり本筋からフェードアウトさせていく点。これによって本筋である「マイルズのスパイダーマンとしてのオリジン」であることが常に自覚的に表現される。

 

3.映像表現の見事さ

 これについては語るまでも無く。アニメーションでできる最大限のおもてなしをずーっと受け続ける気分はとても素晴らしい。ラストバトルなんかは特に先鋭的で意欲的な表現だったように思うけど、それまでにいろんな表現でのパンチを受けてきたおかげであれくらいの先鋭さは受け止められる様になってくる。そのあたりやはりバランスが巧妙だと思った。

 

3.惜しむらくは減らしたからこそ目立つ使い捨て感

 ただし大きな欠点もあって、おそらく原作から削ったであろう、「マニア向け要素の中でも超マニア向けの要素」であった「大量のスパイダーマンが登場する」という要素がなくなり、異なる次元のスパイダーマンは数人しか出ないことは、割と大きな欠点となっている。

 

スパイダーバース【限定生産・普及版】

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前述の通りそのうち2人は割とストーリーにとっても必要だし、彼らもほぼメインキャラとして程々に深掘り・成長物語が用意されているのだけれど、だからこそ残りのスパイダーマンがものすごく中途半端な存在に。大量のスパイダーマンがみんなこんなかんじで雑に消化されてくならともかく、どうしてももったいなく感じてしまう。(一応メインストーリーとは別のラインでサブクエスト的にそれぞれ物語・成長?が描かれてはいるけどまあサブもサブですし)

 

 個人的には期待していた以上の出来でした。かなり期待していたのにその上をいかれたのはなかなか。ヴィランの選び方も良かったなーって。思います。

 ゲームも良かったけどヴィランの選び方という意味ではこっちのほうが一枚上手か。ゲーム性を意識しないでかっこよさだけを考えればいいからなー。