白い林檎、硝子のスープ

読書・ゲームなどの感想を書いていくです

煙突の上にハイヒール 小川一水

煙突の上にハイヒール

煙突の上にハイヒール

 物語としての面白さはかなりあるし、さすがは小川一水でストーリーとガジェットの結び付け方もさりげなくてうまい。さらっとした終わり方あり、意外に深く考えてしまうような終わり方ありで、比較的表情豊かな作品群だと思う。SF要素は極端に強くなくて、一番強いので不気味の谷の話あたりだろうから一般人向けとしてかなりありだと思う。ラノベ的な軽さもないし。
 ただ、心に残る、というものがない気がする。どうも小説として弱い。確かに面白い話なんだけど、小川一水の小説だ、ということを考慮に入れても弱い。すごく優しい、理想的な物語を語るにしてもこれではどうも心に残らない。『老ヴォールの惑星』のような最近(?)の印象的な作品に比べてどうも、なんというか文体をわざと巧みにしてるのが全体としての印象を弱めている感じがある。
 まあそれにしても「おれたちのピュグマリオン」と「白鳥熱の朝に」はすごいと思いましたが。題材的にはかなりうおおというものなのにそれを微塵も感じさせない文章力、そして読了後に思えばあれはものすごい内容だなあと感じさせるさりげなさ。弱さを効果的に活用しているのは特にこの2つかと。
 一応個別の感想を述べておくと、

「煙突の上にハイヒール」
 すごく最高な近未来! いいなあいいなあと思える、もう爽快感抜群の作品。つまりはそれ以上でもそれ以下でもないと言える、印象には残りにくいけどいい話だなー、という感じの。

「カムキャット・アドベンチャー」
 怠惰学生って感じがよく出ててなんというかデシャビュ? わかりやすい構図。もう結末がすぐ分かる感じ。キャラ性がすごく強いなぁ。面白い。

「イブのオープンカフェ」
 感触的にはなんだろう、幻想的。雪の降るなか街頭に照らされるロボットなイメージがわく。いやそんな話ではないんだけど。心の琴線に触れるけど触れただけで終わってしまう感じは少し物足りない。

「おれたちのピュグマリオン
 物語としてはなんとなく小川一水っぽい一つの題材と作り手の天才と市場と、という感じなんだけど……複雑。うん、難しい。

「白鳥熱の朝に」
 世界観がおいおいというのと、一度決壊した人が復帰する感じの典型的な話だな、という印象だったけど、よく考えるとこれ結構いろんなテーマ含んでるなー、と。