白い林檎、硝子のスープ

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夜の試写会 S.J.ローザン

夜の試写会 (リディア&ビル短編集) (創元推理文庫)

夜の試写会 (リディア&ビル短編集) (創元推理文庫)


 とても安定した短編集だと思う。他の長編を読んでいないのだけれど、2人の探偵の掛け合いが非常に面白い。特に表題作の、痛快さとあっといわせる真相の両立が非常にうまい。比較的ありきたりかもしれないけどこういう安定したミステリーは久々なので結構嬉しかった。
 単独調査の方は結構独特の味が出た作品が多い。リディアの方は中国系の話、ビルの方は何とも言えない後味の、比較的含むところのある話が中心となっている。ペテン師の話などはあっさりしているが爽快感がある。「人でなし」はありがちながら言葉の綾をうまく使った作品。「ただ一度のチャンス」は底辺層の黒人の自殺疑惑、という何とも言えない話を何とも絶妙な語り口で、斜め上の展開に引っ張ってくれる。ラストも秀逸だ。
 でもやっぱり2人の掛け合いが一番の面白さだと思う。表題作も虎のペニスに関する話もちょっと俗っぽいけれど味のある掛け合いがとても秀逸だ。
 面白いし、読んでて楽しかったけれども、絶対に読め!といって進めるほどの「何か」が足りない気がするのは非常に残念。地味なんだよね、やっぱり。