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白い林檎、硝子のスープ

読書・ゲームなどの感想を書いていくです

少女たちの羅針盤 水生大海

少女たちの羅針盤

少女たちの羅針盤


 選考委員が島田荘司のみというなんだか小松左京賞を彷彿とさせる第一回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀賞受賞作。
 女子高生4人が結成した『羅針盤』という演劇ユニットの結成からその一人の死、崩壊までを描く青春小説的な過去パートと、整形し名前も変えたという有名ではない女優の舞利亜が過去パートで犯した殺人を脅迫され追い詰められていく現在パート。この二つが交互に語られ、最終的に舞利亜の正体が明かされて物語は幕を閉じる。
 ミステリー的にはいわゆるフーダニット(誰が犯人なのか)を推理するものである。現在パートの舞利亜は自分が犯人であることを認めており、過去パートを読んで彼女が誰かを推理するわけだ。
 しかしこの小説で最も面白いのは過去パートの演劇ユニット結成からその解散までの青春小説部分だ。登場人物はいささか典型的な要素を含むが非常に個性がはっきりしており、性格も人物背景もかなり書き込まれている。そんな彼女たちが持ち前の才能、情報、コネなどを上手に使って自分たちのユニットを有名にしていく。
 この小説が重点を置いているのは彼女たちの内面描写で、かなり屈折した感情だったり抑圧していたり家庭環境がアレだったりな描写があるおかげで、典型的な青春小説の型に嵌っている割に爽やか系とは一線を画している。その上彼女たちは物語の中でとくに人間的に成長をしない。過去パートから現在パートへの4年間で成長する、その伏線になっているのだ。この繋げ方はかなり秀逸である。
 逆に推理小説としてどうかといわれるとこの作品はかなり微妙だと言わざるを得ない。犯人が物語中盤で大体予想がつく上に犯人が分かってしまうとミスリードも予測がつくし果てはトリックが仕掛けられている場面も分かってしまう。また過去パートは一人称がめまぐるしく切り替わるため誰が言っているのかわからない台詞が出てきたり、あまりに現実味のない設定があったりと少し小説としても難のある部分が散見される。
 ただし現在パートの最終局面、犯人が明かされ追い詰められていく場面の勢いは、次々に明かされる伏線や羅針盤メンバー達のその後などが絡まり合い非常にテンポがよく爽快感がある。少し綺麗に終わり過ぎるかもしれないが、この怒涛の展開を演出するためならそれでもいいかと思える。
 フーダニットにも関わらず犯人が分かりやすすぎるのと犯人が分かった時点で連鎖してミスリードやトリックが見えてしまうのが推理小説としては致命的だが、青春小説のある意味典型を用いながらも、しっかりと主要な登場人物に個性を出して物語を演出し切ったのは素晴らしい。

(以下ぐだぐだと)
 正直言って個人的には好きではない、というのも正直すごくありがちで調理しきれてないわけです。ラストの疾走感は素晴らしいけどそれにつなげるためにわざわざ過去編を語っているという印象がぬぐえなかった。あまりに非現実的すぎるキャラ設定は漫画的だと言って許せるけれど、さすがにああもテンポよくイベントが起こり適度に進んでいくのはどうもわざとらしさが。
 感情移入できない、というのはこの小説の場合利点であるわけですが、その割に中途半端に感情移入させようかという感じに登場人物の主観が交じる。その混ぜ方も下手なのでどうしても混乱せざるを得ない。
 確かに読み終わってつまらなかったとは思わないけどなんとなく時間を無駄にしたような気持ちになってしまうところは正直残念。ぐだぐだとまとめきれてないけど、つまりは個人的にはこの作品が好きではないです。