虚構機関 年刊日本SF傑作選
- 作者: 田中哲弥,大森望,日下三蔵
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/12
- メディア: 文庫
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こういう傑作選が今までなかったということには驚き。まあ確かに日本SFなんてしょーもないのばっか、と中高生の時は思ってたわけです。大学に入ってから日本のSFにもいいのがあるってことに気がついて、それ以降結構読み漁ってるわけなんですけど、正直外れが多いわけですよ。6割がた外れの作品で、4割は結構いい。傑作なんて一握りです。しかし、最近の作品は結構当たりが多い。伊藤氏なんかは『ハーモニー』で傑作だ!と思いましたし、円城塔、小川一水など、結構今アツいと言って過言ではない。
そういう意味で確かに日本SFの傑作選を今作るのは非常にいいことだと思います。ただ、正直これが傑作選……という感じのがいくつかあって、まあSF、特に日本のは好き嫌いがとってもわかれるんですが、ちょっと物足りないかなぁと思いました。
<グラスハートが割れないように 小川一水>
たぶんこの傑作選の中で一番好き。小川一水は短編集と時砂しか読んでないけど、やっぱりこういう短編が好き。透明感があって、特にこの短編は繊細。ぽわーんとしてて。
<七パーセントのテンムー 山本弘>
この人は逆に苦手。シュレディンガーのチョコパフェが本当に微妙だったんです。アイデアだけで勝負するならもっと硬派な方が個人的に好き。この人の作品はほとんどがだから何?という印象なんです。
<羊山羊 田中哲弥>
ばかばかしくて面白かった、けど筒井康隆レベルではないなぁ。でも、単純に面白かった。
<霧の中 北國浩二>
はっきり言って微妙。何が面白いか分からない。そもそもこういう設定を使うなら「フリージア」ぐらい混沌とさせてほしい。短編では何ともしがたい。
<パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語 円城塔>
実は円城塔を読み切ったのはこの作品が初めてかも。なんか真剣に読めばわかるのかもしれないが真剣に読む気になれない、適当に読んだら読んだでもっとちゃんと読んだらもっと面白いかなと思えてしまうようなすごい文章力。この人の面白さはアイデアとかそんなものではなく、このわけのわからない文章を面白いと思わせてしまう文章力だということは自明だろう。うん、いつもどおりだけど面白かった。
<声に出して読みたい名前 中原昌也>
この人は円城塔の先駆者みたいなものかなぁと思ってみたり。面白いです。ばかばかしい。
<ダース考 着ぐるみフォビア 岸本佐知子>
これはなんというエッセイ。いや、まあ、面白いです。
<忠告 恩田陸>
恩田陸ファンなのであえて擁護するとこういうSF傑作選に選ぶんなら「いのちのパレード」の中に収録されているような作品を選んでほしかった。ちょっとこの傑作選は星新一に偏り過ぎてる。
作品としては面白いけど、恩田陸でなければ書けない、という作品ではないのですよ。
<開封 堀晃>
まあ、ありがちといえばありがち? つまらなくはなかったけど面白くもなかった。
<それは確かです かんべむさし>
この人だからこそかける作品。嫌いではない。ただ、これもこの傑作選の欠点である「星新一に偏り過ぎ」の類の作品といえばそうなってしまう。
<バースディ・ケーキ 萩尾望都>
萩尾望都のSF短編は最近のは冴えないのが多い、という印象だが、これは面白かった。「バルバラ異界」の淡白さと萩尾望都の発想の豊かさが合わさって相乗効果を挙げている。こういうの好き。
<いくさ 公転 星座から見た地球 福永信>
わからん。おもしろくない。正直微妙というより面白くない。
<うつろなテレポーター 八杉将司>
すごくイーガンっぽいのはなんでだろう。順列都市のイメージ。淡白な感じがいい。面白かった。恋愛要素とSF要素はすごくうまい調合だよなぁと個人的には思います。この二つはバランスをうまく取れてないとおもしろくなくなっちゃうんだけど、これはすごくうまいバランスだと思う。絶妙。
<自己相似荘 平谷美樹>
難しいこと言ってれば面白いとでも思ってるの?というとわからなかったバカの灯が身にしか聞こえないかもしれないけど、実際微妙。幽霊の科学的説明は面白かったけど、それだけ。
<大使の孤独 林譲治>
こういう正統派SFがあって嬉しい。それだけ。面白くはある。正統派いいよね。
<The Indifference Engine 伊藤計劃>
普通に面白かった。この人の作品はほんとに小島作品に影響されてるなあ。題材としてはありがちだけど非常にリアルなので面白い。近未来のディストピアを予感させる作品を作らせたらこの人は一番だったと思う。亡くなったのが本当に惜しい。