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白い林檎、硝子のスープ

読書・ゲームなどの感想を書いていくです

マドセン作品群…カニバリストの告白、グノーシスの薔薇、フロイトの函

カニバリストの告白 デヴィット・マドセン>

カニバリストの告白

カニバリストの告白


 冒涜的、背信的、倒錯的なんだけど、非常に魅力的。
 「肉flesh」に対する異常なまでの愛を持つ天才料理人の数奇な半生を描いた小説。初めの章からいきなり自分の母親が最高だったということを延々と語り出し、母親が本当は淫乱だったとか言われたから父親と絶縁する。もういろいろとマザコンの上に狂ってるわけだが、そこから先がすごい。料理人になるためとある店に弟子入りするんだがそこでホモちっくな倒錯が始まる。そこからの展開はいろいろと凄い。とにかく読ませる。問答無用で読んでしまう。本当に「flesh」に執着する主人公の独白は気持ち悪いを通り越して快感である。まあ途中から連発し始めるホモ描写は辟易するが、作品全体を通して描かれている不快性を際立たせているのでありだと思う。
 ミステリーとしての解釈もできる。主人公は殺人の罪で捕まっているのだが、実は……という。ラストで真相が明かされる上に、結末が非常に悪質などんでん返しなため、唖然とする。
 「O嬢の物語」の時も思ったが、やっぱりマゾヒストの快楽はわからない……。

<グノーシスの薔薇 デヴィット・マドセン>

グノーシスの薔薇

グノーシスの薔薇


 ということでグノーシスの薔薇、『カニバリストの告白』に引き続きマドセンの作品です。あちらの作品が肉に執着する主人公だったのに対し、こちらは肉を嫌悪する、外見以外はいたって常識的な人間。外見が醜い小人であったがゆえに虐げられる彼は、ある日ある女性に出会い、グノーシスに出会い、人生が一変する。
 とにかく彼の一生を語り続ける小説なので、ともすれば冗長になってしまう。『カニバリストの告白』よりも急展開とか滑稽な描写とかが少なく、グノーシス主義の本質とか、ルネサンス期のローマ教会の実情といった堅めの描写が多い。だが、読んでしまう。本当に不思議なんだけれども、このマドセンという作家の文章には人を引き付ける何かがあると思う。真面目な中にどこかこっけいさを含んだ文章で書かれたローマ教会は非常に面白い。
 そもそもレオ10世が男色の醜い男で、しかもネコ(同性愛的性行為における受け側のこと)
であるというゆがんだ設定からして結構やばいんだが、レオ10世の醜と外面的な教皇という立場の美、この小説で語られるローマの醜と戦争などの史実描写の美、グノーシス主義の醜と美、といった対比が非常に効果的に用いられている、がそれゆえに下品であることは否めない。しかし下品さはあまり感じられない。たしかに文章的には決して品のいいものではないが、主人公の主観で語られる醜なのでそれらは醜ではないように錯覚できるものである。ただし読者が本当にそう思えるかは別として。
 グノーシス主義は結構面白い。この世界を作ったものは悪であり、真実の世界はどこかほかにある→この肉体は悪であり、けがらわしいものであるetcという感じの、いい感じに変なのがいい。
 このマドセンの作品、とりあえず二つとも殿堂入りですね。面白い。とにかく面白い。

フロイトの函 デヴィット・マドセン>

フロイトの函

フロイトの函


 3作目。日本での刊行順なら2作目だけど。とりあえず前二つの作品とは根本的に異なる作品だということを注意しておくべきだろう。
 唐突に列車の中で記憶喪失に陥る主人公はジークムント・フロイト博士(「あの」フロイトとは異なる)と出会ったり、夢夢夢とわけのわからんまま変に哲学的な話題、なのに無駄にお下劣な話題を語られたり、スカートはいたりする。わけがわからない。これが夢なのか現実なのか判然としないまま主人公はお城に連れてこられる。いきなりヨーデルの専門家だと思いこまれた主人公はヨーデルの専門的講演をするはめになったり、城主の娘がやたら魅力的でエロかったり妄想に走ったり、執事は妻を監禁してたり平然と牛が襲ってきたりもう完全に夢の中レベルにカオスな展開が押し寄せる。
 正直なところ内容というべき内容はなく、前2作でも出ていたマドセンのコメディ要素が前面に押し出されたものになっている。話の筋はカオスでわけわからないが、とにかく個々の人々の語りが面白い。とくにマルコヴィッツは傑作なほど典型的な「小説的愚者」で、彼は終盤わけのわからないノリノリの周囲の人たちに押し切られてわけのわからない感じになってくる。読んでいる限り彼だけが常識人である。彼は主人公をバカにするし、不可思議な世界を受け入れながらも自らの信念で動いている。信念、というほど大したものではないかもしれないけど。かれの立ち位置が変わらないからこそブレまくる主人公の語りが面白くなるのである。
 まあ、正直なところ前二作であった洗練された文章が意図的に消去されているので結構残念なんだけど、これはこれでアリだと思う。でもやっぱりグノーシスが圧倒的に面白かった。殿堂入りするレベルではないなぁ。