白い林檎、硝子のスープ

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告白 湊かなえ

 この本のいう「告白」とは何なのだろうか。
 第一章での告白で、担任教師は自分の娘を殺した教え子を告発する。その独白は、しかし非常に主観的であり、それは次の章で否定こそされないにしろ疑問を持たざるをえなくなる。この小説で一番問題となっているのは倫理観であろう。登場人物たちはすべてゆがんだ倫理観を振り回し、都合のいいように他人を解釈する。その解釈が重荷になる、という話ならよくあるが、この小説ではその解釈が他人を傷つける。そして他人を傷つけることにより、「告白」を行おうとする。この小説での「告白」は「視てほしい、聞いてほしい」なのである。
 その一番典型的な例が天才少年だろう。母親に振り向いて欲しい、という目的での「告白」に最後まで振り回される。彼はそうやって言い訳をするけれども、第六章で教師が言うようにそれは所詮駄々をこねているだけだ。彼がすべての始まりで、彼がこの小説における悲劇を作り出した。
 しかし、すべての悲劇を作り出したのではない。悲劇を創造したのは彼だが、加工し、演出したのは担任教師である。彼女の独白的な文章が最初と最後にあるというのは、この物語自体が完全に彼女の主観の上に成り立ったものだということを示している。最後の衝撃的な結末は、しかし本当に成功したのかすら明らかにならないし、彼女の行為が次のいかなる「告白」へとつながったのかは語られない。しかし「告白」は続いただろう。
 この作品は後味が悪い。それだけが残念だ。小説としての技法は非常に良いし、心理描写は稚拙だが、ありふれた題材をうまく調理する術にたけている。後味を悪くしたいのはわかるが、何の意味があるのか。「考えさせる作品」というレベルまで達していないのに、無駄に後味を悪くすることはなんの意味もなさない。もう少し経験を積んでからこのような題材に挑んでほしかった、という感じは否定できない。

評価:4