白い林檎、硝子のスープ

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ジェニーの肖像 ロバート・ネイサン

ジェニーの肖像 (創元推理文庫)

ジェニーの肖像 (創元推理文庫)

 主人公のイーベンは売れない画家。ある日公園でジェニーと名乗る少女と出会う。次に再会したとき、ジェニーは何年もたったかのように美しく成長していた……
 表題作である『ジェニーの肖像』はとても純粋な愛を描いている。会うたびに著しく成長していくジェニーと主人公の愛は、別れを予感させながらも淡々と、美しく進んでいく。
二人が住む時間は異なり、ジェニーからすればイーベンは未来の人である。しかしジェニーはどんどん成長していき、ついに同じ時に至り、そこで悲劇が起こる。その悲劇は、喪失をもたらすにもかかわらず、二人の愛を引き裂くことはできない。
 彼らの愛は、互いにほとんど会うことがなく、なぜジェニーが時間を超えて現れるか、という謎も全く説明されないにもかかわらず、互いを信頼しきった純愛である。クサすぎるほどに幻想的、理想的な愛であり、そしてそれは最後の瞬間に完全な愛となる。
しかし同時にそれは喪失の成立でもあった。解説で恩田陸氏が語っているように、この物語は喪失の予感に満ちている。二人の出会いからして喪失の予感がしているし、そこからも常に喪失のイメージが付きまとう。特に「海」は大きな象徴となっている。しかしまたそれは「愛の源」という象徴としても機能しているのだ。愛も何もかも、いつかは失われるもの。それは得られた時と同じように突然去っていく。しかし、その喪失は我々の中に大きなものを残していってくれる。そのような喪失を理解しているからこそ、作者はこのような美しい愛を描き切ることができたのだろう。
 この本には表題作のほかに『それゆえに愛は戻る』という作品も収録されている。こちらも似たような恋愛小説である。妻を亡くした作家のところに女の人が現れる話。表題作と比べて展開に起伏があり、謎めいているものの、こちらは最後にはすべてが明かされる、わかりやすい恋愛ものとなっている。抒情性はこちらの方が上だが、やはり幻想的という意味では表題作の方が心に残る。
 どちらの作品も、非常に心に響く恋愛小説であり、幻想的で詩的なその愛の美しさは我々を魅了してやまない。恩田陸ライオンハート』、萩尾望都『マリーン』『ヴィオリータ』、水野英子『セシリア』など、日本の作家、漫画家にも大きな影響を与えた恋愛小説の傑作。読んでみてはいかがでしょうか。

個人的評価は4、恋愛小説でこれ以上のものは見たことがない(まあ恋愛小説自体ほとんど読んでないが)。

Cf.昔の書評ノートより初読時感想
<ジェニーの肖像>
 何か私的。美しい文章。美しい構成。悲劇という美。きれいだが、どこか幻想的で悲しい。主人公の心が伝わってくる。ジェニーは良く、理想的と言える少女として挙げられるような少女・女性であるが、それでいてちょっと違う。ラストの、二人の再会は、とてもいい話だがあまりにもつらい話だ。
<表題作じゃないやつ>
 個人的に、こっちの方が面白かった。終わりが来ることのわかっている恋。待ち人の思い。ラストの展開がとてもつらい。途中で入ってくる童話に関する話が実は中核か。

とにかく美しくてきれいな文章。散文詩的なのか?良かったですよん。