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白い林檎、硝子のスープ

読書・ゲームなどの感想を書いていくです

イノセント・ゲリラの祝祭 海堂尊

 非常に面白い、とは言い難い。今回の話はノンフィクションを基にしたフィクションであるからだ。

 著者が自身のサイト上で語っているところによれば、今回のテーマは医療界において非常にタイムリーな話題。それを、ほぼそのまま(なのかどうかはよくわからないけれども)作者のシリーズの登場人物たちでぼこぼこにしていく話。ハッキリ言って、著者の意見を言いたいがために小説という媒体を利用しているということになっている。元からAiの重要性を知ってもらいたいから、という理由で小説を書いたそうなので、処女作以来一貫してこの「著者の意見を言うorAiをよく知ってもらう」という目的を以て著者の作品は描かれている。これはバチスタ以来ほぼすべての作品において一貫していることであるが、今回は、それが非常に表に出ている。これはおそらく危機感があるのだろう。実際の設立検討会が、この小説内であるような正直あまりにもくだらない、自分たちの利益ばかり見つづけるひとたちで構成された委員会なのであれば、明らかにAiに対する意識はあいまいになる。というか、何も進まない。このままの状態で、Aiがその本来の役割を生かしきれずに無視されることほど、著者が恐れていることはないだろうから、このような問題提起本的になってしまったのだろう。

 Aiの先駆者であり、現在も闘っておられる人として、それを憂慮するのはいいことだし、こういう宣伝の仕方は個人的にはありだと思う。

 これで物語がつまらなかったらまずいんだが、そこはさすが。白鳥さんを上回るレベルのたちの悪いやつを登場させることで、非常に面白おかしく進めていく。議論のパートではかなりテンポが悪いが、これは明らかにわざとであろう。役人の回りくどさやら何やらをうまく表現しているといえる。登場人物も、これまで出てきたなかでも魅力的な人々が再登場。なかなか面白かった。
 ただ、今回は白鳥さんが出番少ない。そのかわりにぐっちーがやたらと活躍してるが、後半は完全にマリオネットで、すべてスカラムーシュが操ってる。彼はものすごくいいキャラなので、個人的にはもっと出てきてほしい。

 残念な点もいくつかある。ジーンワルツをはるかに超える解説ばっか。さすがに多すぎると思われる。ぐっちーのキャラがなければかなりきついとおもう。明らかに映画やドラマからこのシリーズに入った人への牽制。そういうのは個人的にはもっとやれ!なんだけど、流石は親切だった。まあ、バチスタの被害者を出すのは逆に媚びていて、どっちかはっきりしてほしかった。
 今回の話で「北」の謎もすこーしだけ進展したし、クライマックスに向けて爆走準備な感じがする。次にも期待。

 個人的な感想として、現在の医療制度が本当にこの小説通りであったとしたら、それは想像をはるかに超えている。官僚が腐ってるってのはわかりきったことだけれど、それにもましてあまりにも頭が固すぎる人間が上の方に多い。どうせエリートコースを通って大して苦労もしないで上まで行った人間なんだろうが、あの法学の先生に対する攻撃はすごかった。やっぱ東大の教授に訴えられそうになってるのが結構ムカついてるんだろうなあ。

 あと、このシリーズを読んでいて思うのが、Aiの有用性はよくわかるんだが、Aiの問題点が全く示されていないということ。問題点はない、というのが主張なのだろうが、正直、問題のない課題なんてないはずなので(実際に現実がどうかは知らないが)、そのあたりをもう少し知りたいと思った。まあ、資金面だろうけど。

 シリーズを読んでいるのであれば、まあかなり楽しめると思う。だが、これ単体で読んだ場合、娯楽小説を期待するとひどい目にあう。逆に医療現場の問題とかに関する本だと思えば意外と楽しめるかもしれない。


 評価:4(海堂ファンとしてはもう少し話を進展させてほしかった)