白い林檎、硝子のスープ

読書・ゲームなどの感想を書いていくです

ウォリス家の殺人 D.M.ディヴァイン

<あらすじ>

 人気作家ジョフリーの邸宅“ガーストン館”に招かれた幼馴染のモーリス。最近様子のおかしいジョフリーを心配する家族に懇願されての来訪だった。彼は兄ライオネルから半年にわたり脅迫を受けており、加えて自身の日記の出版計画が、館の複雑な人間関係に強い緊張をもたらしていた。そして憎み合う兄弟は、暴力の痕跡を残す部屋から忽然と姿を消した。英国本格の妙味溢れる佳品。

<感想・評価>

 良作。フーダニットの真骨頂。途中で消去法から犯人は大まかに見当がつくが、それでも確信することができないようになっている。ミスリードの中に真実を混ぜているため、初読ではさらっと流してしまう可能性が高い。確かにもう一回確かめてみるとそういう描写はあるんだが、なるほど……とうなってしまう。これは何回でも読める作品だ。犯人が分かっている2回目こそ本領発揮かもしれない。

 ストーリーは古典ミステリによくありそうな話を鋳型として登場人物が全員ひねくれてるという感じか。主人公は探偵じゃないし、とくにすばらしい頭脳の持ち主というわけでもない。物語の流れが自然に真相まで導いてくれるという、ミステリ特有のわざとらしさのない作品だ。

 ちょっと惜しいのが動機があいまいであること。ミスリードの犯人の動機が明快すぎるのに対して、少し動機が弱い。性格、というだけでは収まりきらないものがあるように思う。まあ、この動機の弱さをラストに至るまでの人物描写によって補ってるわけだが、やはりこの作品の弱点といえばここだと思われる。
 逆にいえばそこしか鼻につくような問題点がない。特に登場人物の個性が光っている。探偵役である主人公も、ほかの人物たちも、みんな何かしか問題を抱えていて(またその問題が古典的なんだがなかなか新鮮で)、その描写も、紆余曲折っぷりも面白い。だから、まんまと作者の罠に引っ掛かってしまう。

 かなり極めつけな良作だと思う。キャロル的な人物描写の魅力を少し感じた。

 評価:5 このミスでかなり上位に行くんじゃないかなあ?